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中国語(武漢方言)における“的”の様々な用法(覚え書)
The Particle “De” in the Wuhan Dialect of Chinese
許 慧
XU Hui
はじめに
中国語(武漢方言)においては、構造助詞“的”(日本語の「の」に当たる)を用いるこ
とによって、中心語を修飾する名詞、動詞などの成分と中心語を結びつけることができる。
また、“的”フレーズを構成することもできる。本稿は、中国語(武漢方言)における“的”
の様々な用法を扱う。
§1. 連体修飾語をつくる“的”
名詞を修飾できるものはさまざまで、数量詞、名詞、代詞、形容詞(もしくは形容詞フ
レーズ)、動詞(もしくは動詞フレーズ)、主述フレーズなどがある。これらのものは「定
語」と呼ばれている。定語の後にはよく構造助詞“的”を伴い、“的”は定語の形式上の標
識であるが、すべてが“的”を伴うわけではない。定語の後に“的”を用いるかどうかは、
定語になる語句の性質と定語のあらわす意味とに関わる。以下にそれぞれの場合について
述べる。
§1 – 1. NP+的+NP
§1 – 1 – 1. 数量詞+的+NP
まず、「数量詞」が名詞を修飾する場合を見てみよう。
(1) a 一 个
一 量詞 人
(一人)
b *一 个
的 人
一 量詞 の 人
(一人)
(2) a 一
量詞
(一冊の本)
b *一
的 书
量詞 の 本
(一冊の本)
(1)、(2) の例に挙げたように、個体をあらわす数量詞“一个”、“一本”などが定語にな
る場合は、“的”が用いられない。ただし、次の例を見よう。

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(3) a 他 买
三 斤
的 鲤鱼。
彼 買う た 一 量詞
三 量詞 の 鯉
(彼は 3 斤〔1.5 キロ〕の鯉を一匹買った。)
b *他 买
鲤鱼。
彼 買う た 一 量詞 三 量詞
(彼は 3 斤〔1.5 キロ〕の鯉を一匹買った。)
(4) a 一 寸
的 钉子 要
两 个。
一 量詞 の 釘
要る 二 量詞
(一寸の釘は二つ要る。)
b *一 寸
钉子 要
两 个。
一 量詞
要る 二 量詞
(一寸の釘は二つ要る。)
(3)、(4) の例においては、数量詞“三斤”、“一寸”が中心語“鲤鱼”(鯉)、“钉子”(釘)
の重さ、大きさをあらわしている。このように、数量詞が描写
1
の働きをする場合は、“的”
を伴わなければならない。
(5) 一 身
(的) 汗
一 量詞
(体は汗だらだら)
(6) 一 地
(的) 水
一 量詞
(床は水だらけ)
(5)、(6) の例では、名詞を修飾する量詞がいわゆる「臨時量詞」である。この場合は、
“的”があってもなくてもよいが、描写の働きが強ければ、“的”が必要である。例えば、
(5) の例を次の文にすると、“的”があったほうがよく、“一身”が「体全体」の意味をあ
らわす。
(7) 他 刚
跑步 回
来,
一 身
的 汗。
彼 ただ今 走る 帰る 来る
一 量詞 の 汗
(彼は走って帰ってきたところだ。体じゅう汗だらけだ。)
次に、分数が定語になる場合をみる。
(8) a 今年 我们 学校 有
百分之八十
的 学生 考上
大学。
今年 我々 学校 いる 80 パーセント の 学生 受かる た 大学
(今年我々の学校では 80 パーセントの学生が大学に受かった。)
b ??今年 我们 学校 有
百分之八十
学生 考上
大学。
今年 我々 学校 いる 80 パーセント 学生 受かる た
大学
(今年我々の学校では 80 パーセントの学生が大学に受かった。)
(9) a 三分之二 的 蛋糕
被 他 一 个
人 吃
了。
三分の二 の ケーキ 被 彼 一 量詞 人 食べる た
(ケーキの三分の二は彼一人に食べられた。)
b ??三分之二
蛋糕
被 他 一 个
人 吃
了。
三分の二
ケーキ 被 彼 一 量詞 人 食べる た

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(ケーキの三分の二は彼一人に食べられた。)
(8)、(9) に見るように、定語が分数である場合、通常“的”を用いなければならない。
§1 – 1 – 2. 指示代詞・疑問代詞+的+NP
次に、指示代詞が名詞を修飾する場合の“的”の用法を見よ。
(10) a 这
话 说
得 蛮
好。
これ 話 喋る 得 とても よい
(これはうまく言ったもんだ。)
b *这
的 话 说
得 蛮
好。
これ の 話 喋る 得 とても よい
(これはうまく言ったもんだ。)
(11) a 那
树 好
哇!
それ 量詞 木 とても 高い 語気詞
(その木は高いね。)
b *那
树 好
哇!
それ 量詞 の
木 とても 高い 語気詞
(その木は高いね。)
(10)、(11) に挙げたように、「指示代詞」あるいは「指示代詞+量詞」が定語になる場合
は、後に“的”をつけない。ただし、次の例をみよう。
(12) a 这样
的 人 不
值得
同情。
このよう の 人 ない 値する 同情
(このような人は同情に値しない。)
b *这样
人 不
值得
同情。
このよう 人 ない 値する 同情
(このような人は同情に値しない。)
(12) では、代詞“这样”が描写のような働きをもつため、“的”を伴わなければならな
いと思われる。
疑問代詞の場合は、どうであろうか。次の例文を通して考察する。
(13) a 哪个 老师 教
你们 英语 啊?
どれ 先生 教える 君ら 英語 語気詞
(どの先生が君らに英語を教えているの?)
b *哪个 的 老师 教
你们 英语 啊?
どれ の 先生 教える 君ら 英語 語気詞
(どの先生が君らに英語を教えているの?)
(14) a 你
的 裙子
么 颜色 的 啊?
あなた の スカート です 何 色
の 語気詞
(あなたのスカートは何色ですか。)
b *你
的 裙子
么 的 颜色 的 啊?
あなた の スカート です 何 の 色
の 語気詞
(あなたのスカートは何色ですか。)

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(15) a 你们 学校 有
几多 学生 啊?
君ら 学校 いる 何人 学生 語気詞
(君らの学校には何人の学生がいるの?)
b *你们 学校 有
几多 的 学生 啊?
君ら 学校 いる 何人 の 学生 語気詞
(君らの学校には何人の学生がいるの?)
上記の例に見るように、疑問代詞が定語になる場合は、後には“的”をつけない。ただ
し、次の例をみよう。
(16) a 这
哪个 的 书 啊?
これ です 誰
の 本 語気詞
(これは誰の本ですか。)
b *这
哪个
书 啊?
これ です 誰
本 語気詞
(これは誰の本ですか。)
(17) a 他 是
么样
的 人,我 最
清楚。
彼 です どんな の 人 私 最も 分かる
(彼がどんな人なのか、私は一番分かる。)
b*他 是
么样
人,我 最
清楚。
彼 です どんな
人 私 最も 分かる
(彼がどんな人なのか、私は一番分かる。)
(16) の例では、“哪个”(誰)は所有関係をあらわす疑問代詞である。この場合、その後
に“的”を伴わなければならない。また、(17) の例に挙げたような描写の働きをもつ疑問
代詞“么样”(どんな)が定語である場合も、“的”をつけなければならない。
§1 – 1 – 3. 人称代名詞・普通名詞+的+NP
人称代名詞が定語になり所有関係をあらわす際、“的”の使用不使用について、場合によ
って違ってくる(詳しくは、許 2005 参照)。時に“的”の有無によって意味の異なる場合
がある。
(18) a 我们
学生 冒得 钱。
われわれ 学生 ない お金
(われわれ学生はお金がない。)
b 我们
的 学生 冒得 钱。
われわれ の 学生 ない お金
(われわれの学生はお金がない。)
(18) の例において、“的”を伴わない a の文は、学生の立場からの発話と想定すること
ができる。この文では、“我们”(われわれ)は“学生”(学生)のことで、同格成分である。
これに対して、“的”を伴う b の文は、先生の立場からの発話と想定することができる。
この文では、“我们”(われわれ)は“学生”(学生)の定語であり、「所有関係」をあらわ
している。
もし中心語が所属団体・機構をあらわす一般名詞あるいは方位をあらわす一般名詞であ

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るならば、通常人称代名詞が“的”を伴わない。
(19) 我们
公司 是
去年 成立
的。
われわれ 会社 です 去年 設立する の
(われわれの会社は去年設立したのです。)
(20) 小明 站
我 前面。
小明 立つ いる 私 前
(小明は私の前に立っている。)
次に、普通名詞が名詞を修飾する場合の例を見てみる。
(21) 今天 的 报纸
今日 の 新聞
(今日の新聞)
(22) 门口
的 树
かど口 の 木
(かど口の木)
(23) 英雄 的 故事
英雄 の 物語
(英雄の物語)
(24) 红色 的 帽子
赤色 の 帽子
(赤色の帽子)
上記の例の“的”は外形としては同じように見えるが、さまざまな意味を含んでいる。
(21) の“的”はある時間(的区切り)に関係することをあらわしており、(22) の“的”
はある場所(かど口)に関係することをあらわしている。(23) の例において、“的”はそ
の前に立つ名詞“英雄”(英雄)がその後に立つ名詞“故事”(物語)の内容であることを
あらわしており、(24) の“的”は中心語“帽子”の属性をあらわしている。これらの場合
は、通常“的”をつける必要がある。しかし、(25)、(26) に挙げたように、定語になる名
詞が原料、職業をあらわす時には、その後に“的”をつけない。
(25) a ??我 今天 买
了 一 双
皮 的 手套。
私 今日 買う た 一 量詞 皮 の 手袋
(私は今日皮の手袋を買った。)
b 我 今天 买
了 一 双
手套。
私 今日 買う た 一 量詞 皮
手袋
(私は今日皮の手袋を買った。)
(26) a *我 想
英语 的 老师。
私 したい なる 英語 の 先生
(私は英語の先生になりたい。)
b 我 想
英语
老师。
私 したい なる 英語
先生
(私は英語の先生になりたい。)
時には定語になる名詞の後の“的”の使用不使用によって、あらわされる文法関係が異

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なり、意味も異なってくる。次の例を比較してみよ。
(27) a 她
班主任 老师。
彼女 です 担任
先生
(彼女は担任の先生です。)
b 她
班主任 的 老师。
彼女 です 担任
の 先生
(彼女は担任の先生の先生です。)
(27) の a では、“班主任”(担任の先生)は“老师”(先生)の同格成分であり、そうい
うことをあらわす場合には、間に“的”をはさまない。b では、“班主任”は“老师”の
定語であり、所有関係をあらわしており、そういうことをあらわす場合は、“的”を置く。
また、“的”を伴った名詞(もしくは名詞句)が定語になり、所有関係をあらわす場合も
あれば、属性をあらわす場合もある。
(28) a 两 个
人 的 房间 不
一样。
二 量詞 人 の 部屋 ない 同じ
(二人の部屋は同じじゃない。)
b 要
一 间
两 个
人 的 房间。
要る 一 量詞 二 量詞 人 の 部屋
(二人用の部屋をお願いします。)
(朱德熙, 1982:144)
(28) で見るように、a においては、名詞句“两个人”(二人)が所有をあらわしており、
b においては、属性をあらわしている。
§1 – 1 – 4. 慣用句の表現
(29) 莫
我 的 玩笑 了。
ない 開く
私 の 冗談 語気詞
(私をからかわないでください。)
(30) 你
冒得
必要
他 的 气。
あなた ない 必要
生む 彼 の 気
(あなたは彼のことに怒る必要はない。)
(31) 我 上
他 的 当。
私 上る た 彼 の 当
(私は彼に騙された。)
(29)、(30)、(31) においては、結びつきの強い動詞フレーズ“开玩笑”(冗談を言う、か
らかう)や“生气”(怒る)、“上当”(騙される)の間に、“的”を伴った人称代名詞“我”
(私)などが挿入されると、“我”(私)などが動作の対象、あるいは自分に振りかかって
くる行為の行為者であることをあらわす。
(32) 这
会,
的 主席,我 的 记录。
この 量詞 開く 会議
あなた の 議長 私 の 書記
(今度の会議では、あなたが議長で、私が書記です。)
(刘月华等, 1996:284)
(32) においては、“的”が人称代名詞“你”(あなた)、“我”(私)と職務・身分などを
あらわす名詞“主席”(議長)、“记录”(書記)の間に用いられ、ある職務を引き受ける、

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あるいはある身分をそなえるということをあらわしている。
§1 – 2. A+的+NP
形容詞が定語になる時、その後に“的”を用いるか否かは主に音節数に関わっている。
一音節形容詞が定語になる場合は、通常“的”を用いない。
(33) a *张三 跟 李四 是
的 朋友。
张三 と 李四 です いい の 友達
(张三と李四は親しい友達です。)
b 张三 跟 李四 是
朋友。
张三 と 李四 です いい 友達
(张三と李四は親しい友達です。)
(34) a ??我 屋 的 门口 有
一 颗
的 树。
私 家 の 門口 ある 一 量詞 大きい の 木
(我が家の門口に大きな木がある。)
b 我 屋 的 门口 有
一 颗
树。
私 家 の 門口 ある 一 量詞 大きい 木
(我が家の門口に大きな木がある。)
ただし、一音節形容詞が強調あるいは対比をあらわす場合、“的”をつけることが可能で
ある。
(35) 给
我 一 管
的 铅笔。
与える 私 一 量詞 新しい の 鉛筆
(新しい鉛筆を一本ください。)
(36) 这
的 箱子 给
我, 你 搬
的。
これ 量詞 重い の 箱
与える 私
君 運ぶ あれ 量詞 軽い の
(こちらの重い箱は私によこしなさい。君はそっちの軽いのを運んでください。)
二音節形容詞が定語になる場合、通常“的”をつけなければならない。
(37) a 他 是
一 个
谦虚 的 人。
彼 です 一 量詞 謙虚 の 人
(彼は謙虚な人です。)
b *他 是
一 个
谦虚
人。
彼 です 一 量詞 謙虚
(彼は謙虚な人です。)
しかし、ある形容詞は、二音節であっても、いくつかの名詞と結びついてかなり固定し
たフレーズを形成する場合には、“的”を用いないことが多い。下記の例を見よ。
(38) a 张三
老实 人。
张三
です 量詞 正直 人
(张三は正直な人です。)
b ??张三
老实 的 人。
张三
です 量詞 正直 の 人
(张三は正直な人です。)

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(39) a 我 有
正经
要 办, 你
先 等
一 下。
私 ある まじめ こと 要 する あなた 先 待つ 一 量詞
(私はまじめな仕事があるから、ちょっと待っていてください。)
b ??我 有
正经
的 事
要 办, 你
先 等
一 下。
私 ある まじめ の こと 要 する あなた 先 待つ 一 量詞
(私はまじめな仕事があるから、ちょっと待っていてください。)
一音節の形容詞と二音節の形容詞のいずれの場合も、その前に副詞が置かれると、通常
“的”を用いなくてはならない
2
(40) a 蛮
的 人
とても いい の
(とてもいい人)
b *蛮
とても いい 人
(とてもいい人)
(41) a 不
幸福
的 人
ない 幸せ
の 人
(不幸な人)
b *不
幸福
ない 幸せ
(不幸な人)
(42) は例外だと思われるかもしれないが、よく見るとそうでもない。“特别”(特別)は、
形容詞“快”(速い)を修飾する副詞でなく、名詞フレーズ“快车”と結びついて一つの複
合名詞になっている。
(42) 特别 快
特別 速い 列車
(特急列車)
(吕叔湘,1980:145)
また、形容詞の重畳形が名詞を修飾する時には、“的”を伴わなければならない。
(43) a 大
的 眼睛
大きい 大きい の 目
(くりくりした目)
b *大
眼睛
大きい 大きい 目
(くりくりした目)
(44) a 老老实实 的 态度
正直
の 態度
(おずおずとした態度)
b *老老实实
态度
正直
態度
(おずおずとした態度)

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§1 – 3. VP+的+NP
動詞や動詞フレーズが定語になる場合は通常“的”を伴わなければならない。“的”は様々
な意味をあらわしうる。
(45) 来
的 人
来る の 人
(来る人)
(46) 学
英语 的 学生
学ぶ 英語 の 学生
(英語を学ぶ学生)
(45)、(46) の例において、“的”はあとの NP のあらわすものが VP のあらわす行為の主
体であることをあらわしている。
(47) 吃
的 东西
食べる の もの
(食べ物)
(48) 穿
的 衣服
着る 汚い た
の 服
(着て汚くなった服)
(47)、(48) の例においては、“的”は NP のあらわすものが VP のあらわす行為の対象で
あることをあらわしている。このようなフレーズは、VP の前に主体をあらわす名詞ある
いは人称代名詞を置き、VP のあらわす行為の主体をあらわすことができる。例えば、“我
吃的东西”(私の食べ物)、“小明穿脏了的衣服”(小明が着て汚くなった服)というような
いい方が可能である。
(49) 下
的 雪
降る の 雪
(降った雪)
(50) 开
沸く/沸かす た
の 水
(沸いた/沸かした水)
(49)(cf.“下雪”「雪が降る」)、(50) では、NP のあらわすものと VP のあらわす行為の
関係が曖昧である。
(51) 刷
鞋子 的 刷子
磨く 靴
の ブラシ
(靴を磨くブラシ)
(52) 买
的 钱
買う 本
の 金
(本を買うお金)
(51)、(52) の例では、“的”は NP のあらわすものが VP のあらわす行為の道具・手段で
あることをあらわしている。
(53) 踢
足球
的 天气
蹴る サッカー の 天気

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(サッカーをする天気)
(54) 铁 熔化
的 温度
鉄 熔ける の 温度
(鉄の熔ける温度)
(53)、(54) の“的”は NP のあらわすものが VP のあらわす行為を行うための条件であ
ることをあらわしている。
上記の例において、定語になる動詞や動詞フレーズの後に“的”をつけないと、構造と
意味が変化してしまうことがありうる。例えば、“吃的东西”(食べ物)と“吃东西”(物を
食べる)、“穿脏了的衣服”(着て汚くなった服)と“穿脏了衣服”(服を着て汚くなった)
のように。
また、杨凯荣 (1997)、史有为 (2000)、小野(2001)では、“V 的 N”の“V 的”が「已
然」の読みにとるか、あるいは「未然」の読みにとるかについて三人の見解が一致してい
ないが、已然か未然かの判断が実際に発話されている状況や文脈に委ねられる面があると
いう点では、三人の意見は共通している。
(55) a 我 吃
的 东西 咧?
私 食べる の もの 語気詞
(私が食べていたものは?)
b 冰箱
里头 吃
的 东西 不
了。
冷蔵庫 中
食べる の もの ない 多い た
(冷蔵庫の中の食べ物がわずかだった。)
(55) の a は、例えば、何かを食べている途中、電話が来て外へ出ていた。戻ってきた
ら、食べていたものが見つからなくて、誰かに尋ねる時に発話されたと想定できる。この
場合、“吃的”は已然の読みになる。b は冷蔵庫に置いてある食べ物がわずかしか残ってい
ないという状況を述べており、当然その物が目の前にあって食べられていない状態である
ので、“吃的”は未然の読みとなる。
§1 – 4. PP+的+NP
前置詞句が名詞を修飾する時には、“的”を伴わなければならない。
(56) 对
自己 的 要求
対する 自分 の 要求
(自分に対する要求)
(57) 关于
国际形势 的 报告
関する 国際情報 の 報告
(国際情報に関する報告)
§1 – 5. 擬声語+的+NP
擬声語が名詞の定語になる時にも、“的”を伴う。
(58) 哈哈
的 笑声
アハハ の 笑い声委
(アハハの笑い声)

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(59) 当当
的 钟声
カーンカーン の 鐘の音
(カーンカーンという鐘の音)
§2. “的”フレーズ
“的”フレーズとは、名詞、人称代名詞、形容詞、動詞、主述フレーズなどの後に“的”
を加えて構成されたフレーズ(「“的”字短语」)である。
§2 – 1. NP 的
(60) 这
我 的。
これ 量詞 ペン です 私 の
(このペンは私のです。)
(61) 这
书 是
中文
的。
これ 量詞 本 です 中国語 の
(この本は中国語のです。)
§2 – 2. A 的
(62) 我 的 毛巾
的,他 的 是
的。
私 の タオル です 白い の 彼 の です 青い の
(私のタオルが白いやつで、彼のタオルが青いやつです。)
(63) 门口 有
两 棵
树,一 棵
的,一 棵
的。
門口 ある 二 量詞 木 一 量詞 高い の 一 量詞 低い の
(門口に木が二つある。一つは高くて、もう一つは低い。)
上記の「NP 的」、「A 的」の例はいずれも文の最初にあらわれた名詞と同一物を指して
いる。こういう現象がすなわち、朱德熙(1978)で述べられている“X 的”の「代替機能」
である。「NP 的」、「A 的」のいずれの場合も、それらが指す人・事物は必ずすでに話題に
のぼっているか、あるいはそれと示さなくてもはっきり分かるのでなくてはならず、そう
でなければ用いられない。
§2 – 3. VP 的
§2 – 3 – 1. NP の「省略」である表現
(64) 他 是
车子 的。
彼 です 運転する 車
(彼は運転手です。)
(65) 我 是
书 的。
私 です 教える 本 の
(私は先生です。)
一般に、“VO 的”が、例えば「職業」といった恒常的な意味をあらわすことはよく知ら
れている。「職業」をあらわさなくても、(66) に挙げたような習慣や属性などをあらわす
ものも存在する。

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(66) 我 是
烟斗
的,不 抽
种 烟。
私 です 吸う マドロスパイプ
の ない 吸う この 種 タバコ
(私はマドロスパイプを吸うので、このようなタバコを吸わない)(小野, 2001:150)
しかし、すべての“VO 的”が恒常的な意味をあらわすわけではない。
(67) ―― 你
的 同学
哪个
啊?
あなた の 同級生
です どちら 語気詞
(どちらがあなたの同級生ですか?)
―― 是
那里 看
电视
的。
です いる そこ 見る テレビ の
(そこでテレビを見ている人です。)
(67) の例は発話者が部屋にいる何人かを指して、聞き手の同級生を尋ねる場面と想定で
きる。この同級生がたまたまこの会話が発する間にテレビを見ているが、常にそういう行
為を行うわけでもない。
(68) ―― 这
哪个 的 筐子
啊?
これ です 誰
の かご
語気詞
(これは誰のかごですか?)
―― 是
那个 卖
的(*的)。
です あの 売る 野菜 の
(あの野菜売りのです。)
(68) の例においては、“的”フレーズ“卖菜的”(野菜売り)が“筐子”(かご)の持ち
主であることをあらわすには、もともと“的”フレーズの後にもう一つ「所有」をあらわ
す“的”を用いなければならないが、そうすると、二つの“的”があらわれることになり、
それは許されないため、“的”フレーズに“的”がつかない。
上記の例において、すべての“的”フレーズの後に“人”のような NP を加えることが
できるが、意味が変わる可能性がある。たとえば、(64) では、“开车子的”の後に“人”
を加えたら、“運転する人”という意味になる。その人が必ずしも運転手であるわけではな
い。
§2 – 3 – 2. NP の「省略」ではない表現
(69) 他 跟 你
玩笑 的。
彼 と あなた いう 冗談 の
(彼はあなたに冗談を言っているのよ。)
(69) の例で、“的”の直前の部分は事態の本質であることをあらわしている。
(70) 大 过
的,还
上班?
大 過ごす お正月 の また 行く 出勤する
(お正月なのに、今日も出勤するんですか?)
(70) では、“的”が VO の後に用いられ、ある状態や状況をあらわしている。
中国語(武漢方言)においては、“是”で始まる「是……的」構文
3
がよく見られる。こ
のタイプの構文は主体を強調する。

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(71) a ??是
姐姐 给
我 开
的。
です 姉
与える 私 開ける ドア の
(ドアを開けてくれたのは姉さんです。)
b 是
姐姐 给
我 开
的 门。
です 姉
与える 私 開ける の ドア
(ドアを開けてくれたのは姉さんです。)
(72) a ??是
哪个 给
名字 的 啊,
听。
です 誰 与える 貴方 付ける 名前 の 語気詞 これ いい 聞く
(誰に名付けてもらったんですか。いい名前ですね。)
b 是
哪个 给
的 名字 啊,
听。
です 誰
与える 貴方 付ける の 名前 語気詞 これ いい 聞く
(誰に名付けてもらったんですか。いい名前ですね。)
(73) a 是
爸爸 送
我 去
的 火车站。
です 父
送る 私 行く の 駅
(駅まで送ってくれたのは父です。)
b 是
爸爸 送
我 去
火车站 的。
です 父
送る 私 行く 駅
(駅まで送ってくれたのは父です。)
上記の例では、“是”の直後に来る主体をあらわす名詞“姐姐”、“哪个”、“爸爸”が強調
されており、目的語は“的”の前より後に置いたほうが自然である。口語では、目的語を
“的”の前に置けるものも少数ながらもある。例えば、(71) の b の表現も成り立つ。
次に、「是……的」構文の前に、VP が置かれる例を見てみる。
(74) a ??去
游泳 是
我 出
点子
的。
行く 泳ぐ です 私 出す アイディア
(泳ぎに行くというアイディアを出したのは私です。)
b 去
游泳 是
点子。
行く 泳ぐ です
出す の
アイディア
(泳ぎに行くというアイディアを出したのは私です。)
(74) では、やはり“出点子”(アイディアを出す)の後に“的”をつける表現がおかし
く、“出”(出す)と“点子”(アイディア)の間にはさむ表現が自然である。ここで、注意
されたいのは、この文は「泳ぎに行くというのは私の出したアイディアです」という意味
ではない。日本語に訳せば、「泳ぎに行くというアイディアを出したのは私です」という意
味になる。日本語の直訳文「泳ぎに行くのは私がアイディアを出したのです」は少し舌足
らずである。
では、「是……的」構文の前に、もう一つの文があらわれる場合はどうであろうか。下記
の例を見よ。
(75) 我 去
上海 是
爸爸 买
的 火车 票。
私 行く 上海 です 父
買う の 列車 切符
(私が上海へ行く列車の切符を買ったのは父です。)

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(76) 昨天 晚上 吃
我 洗
的 碗 。
昨日 夜
食べる 終わる ご飯 です 私 洗う の 碗
(昨日の夜ご飯を食べ終わったあとに茶碗を洗ったのは私です。)
(77) 他 电脑
了 是
我 帮
他 修
的。
彼 パソコン 壊れる た です 私 助ける 彼 直す いい の
(彼はパソコンが壊れちゃった。直してあげたのは私です。)
(78) 他 睡着 了 是
我 把 他 昂
的。
彼 寝る た です 私 把 彼 起こす 醒める の
(寝ていた彼を起こしたのは私です。)
(75) では、“是”の前に立つ文のあらわす行為が“是”の後に立つ文のあらわす行為の
あとに行われた行為であり、(76)、(77)、(78) では、“是”の前に立つ文のあらわす行為や
事態が“是”の後に立つ文のあらわす行為をもたらしたため、当然先に行われた行為ある
いは既に存在していた事態であることが言える。もともと“是”で始まる“是……的”構
文では、“是”の直後の部分が強調されるが、“是……的”の前に一つの文を置き、結び付
けて一つの文をつくる場合に、上の日本語訳が感じさせるよりも、その強調が弱くなるよ
うに感じられる。“是”の直後の部分が強調されるより、むしろ“是”の後に立つ文のあら
わす事実が強調されているように思われる。例えば、(75) を日本語に訳すれば、(75) の
( )内のものと「私は上海に行きましたが、父が列車の切符を買ったのです」といった
文の中間の感じである。また、これらは日本語に直訳にしたら、全く通じない日本語にな
ってしまう。例えば、下の(75) を直訳した日本語の文は変である。
(75)′*私が上海へ行くのは父が列車の切符を買ったのです。
また、“是”の直後には名詞がない表現も可能である。
(79) 我 脚 疼
路 走
的。
私 足 痛い です 歩く 道 歩く の
(私の足が痛いのは歩き過ぎたからです。)
(80) 他 咳嗽
的。
彼 咳をする です 吸う タバコ 吸う の
(彼が咳をするのはタバコを吸い過ぎたからです。)
(79)、(80) においては、“的”はその直前の部分が“是”の前に立つ文の原因であるこ
とをあらわしている。この場合は、“的”の直前の部分が“VOV”の形でないと、あらわ
れにくい。例えば、(77) の例を次の文にすれば、成り立たない表現になってしまうのであ
る。
(79)′ *我 脚 疼
的。
私 足 痛い です 歩く 道
(私の足が痛いのは歩いたからです。)
また、これらを直訳した日本語の文は、やや舌足らずであろう。
(79)″ ?私の足が痛いのは歩き過ぎたのです。
(80)″ ?彼が咳をするのはタバコを吸い過ぎたのです。
上記の例において、すべての“的”フレーズの後に NP を加えることができないので、
NP の「省略」ではない表現だと考えられる。

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§3 副詞をつくる“的”
現代中国語では、動詞を修飾するときに“的”の異体“地”が用いられているが、本稿
では、すべて“的”を用いる。
(81) 慢慢
的 走
ゆっくり の 歩く
(ゆっくり歩く)
(82) 好好
的 做
しっかり の やる
(しっかりやる)
(83) 不
的 哭
ない 止む の 泣く
(ずっと泣く)
(84) 不
的 咳嗽
ない 止まる の 咳する
(ずっと咳をする)
このうち、(81)、(82) の“的”が単音節の形容詞の「重叠式」の後に、(83)、(84) の“的”
が VP の後に用いられ、動詞のあらわす行為の方式・状態などをあらわす。
終わりに
中国語(武漢方言)における“的”の様々な用法をまとめてみると、以下の通りになる。
数量詞や指示代詞、疑問代詞が定語になった場合に、描写の働きが強い時、“的”を伴う傾
向がある。人称代名詞や人間をあらわす名詞が定語になり、“的”のあらわれるかどうかに
ついては、許 (2005) 参照。人をあらわさない普通名詞が名詞を修飾する場合、通常“的”
が必要であるが、もしその普通名詞が原料や職業などをあらわす時に、“的”を伴わないこ
とが多い。定語になる人称代名詞、普通名詞のいずれも、“的”の有無によって意味の異な
る場合がある。形容詞が定語になる時、その後に“的”を用いるか否かは主に音節数に関
わっている。一音節形容詞が定語になる場合は、通常“的”を用いないが、強調あるいは
対比をあらわす場合、“的”をつけることが可能である。二音節形容詞が定語になる場合、
一般に“的”をつけなければならないが、ある形容詞はいくつかの名詞と結びついて、か
なり固定したフレーズを形成する場合、“的”を用いないことが多い。形容詞の前に副詞が
置かれると、“的”を用いなくてはならない。動詞や動詞フレーズが定語になる場合は通常
“的”を伴わなければならない。“的”をつけないと、構造と意味が変化してしまうことが
あり得る。
“的”フレーズの場合は、後の NP が省略されたものと考えられる場合とそうでない場
合がある。前者の場合は、一般に“的”フレーズの後に“人”などを加えることができる
が、意味変化が起こる可能性がある。後者の場合は、“的”が様々な意味をあらわしうる。
面白いことに、「是……的」構文(日本語の「のは……だ」文に当たる)において、VO の
後より V と O の真ん中に“的”を置いたほうが自然な例が多い。また、“是”で始まる「是
……的」構文において、“是”の直後の部分が強調されるが、「是……的」構文の前にもう
一つの文がある場合に、その強調が弱くなるように感じられる。また、ある文は日本語に

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直訳されることができるが、ある文はそうはできない。日本語の「のは……だ」文と違っ
て、中国語(武漢方言)の「是……的」構文において、前後の関係をあらわすもの(「から」
など)がなくても成り立つ。なお、“的”を用いて副詞をつくることもできる。
1
定語と中心語との意味関係は非常に複雑であるが、基本的に限定的なものと描写的なものと
を分けることができる。限定性定語は数量・時間・場所・所属などの面から中心語を説明す
るが、描写性定語は性質・状態・特徴・材料・職業などの面から中心語を説明する(刘月华
等, 1996)。要するに、「どれであるか」を明示するのは限定性定語であり、「どのようである
か」を明示するのは描写性定語である。
2
単音節形容詞“多”(多い)、“少”(少ない)の前に副詞“蛮”(とても)を置き、名詞を修飾
する場合は例外的に“的”を用いないことができる。
3
李讷等(1998)は「是……的」の“的”が確認をあらわす語気詞とみなしている。本来、確認
をあらわす文は疑問文を許さないはずだが、「是……的」の疑問文が存在している。例えば、
“你们是么样分的手啊?”(君たちはどのように別れたの?)という疑問文のように。筆者は
この“的”を構造助詞とみなしており、その機能は一つの動詞的なものを名詞的なものに転
換することであると考える。
参考文献
李讷 安珊笛 张伯江 1998 「从话语角度论证语气词“的”」 『中国语文』第 2 期。
刘月华 潘文娱 1996 『現代中国語文法総覧』 くろしお出版。
吕叔湘 1980 『现代汉语八百字』 北京:商务印书馆。
小野秀樹 2001 “的”の「モノ化」機能 ― 「照応」と“是…的”文をめぐって 『現代
中国語研究』第 3 期 pp. 146-158。
史有为 2000 「“V 的 N”的体貌问题」 『语法研究和探索(十)』 北京:商务印书馆。
許慧 2005 「中国語(武漢方言)における名詞句と名詞句をつなぐ“的”」 『熊本大学
社会文化研究』第 3 号 (掲載予定)。
杨凯荣 1997 「V 的 N」における已然と非已然 『中国語学論文集』東方書店。
朱德熙 1978 “的”字结构和判断句 『中国语文』第 1-2 期。
―― 1982 『语法讲义』 北京:商务印书馆。